キセル貝は郡山地方の民間薬で、「医者いらず貝」といわれ、つぶして食べると「医者で治らない肝臓病が治る」とか「二日酔いに効く」などと伝えられているそうです。正式にはツメキセル貝といい、郡山地方では桑の木の根に多く棲息しているようです。
過日の東洋医学会で、私たちのグループが、「過酸化水素肝障害に対するキセル貝の抑制効果の検討」という発表をしてから、取材や問い合わせが多く「肝臓に効く」画期的な何かをもとめている人がいかに多いかをあらためて知る思いです。しかし、キセル貝に関しての医学的解明は、研究の第一歩を踏み出したばかりで、ラットのいくつかの実験を手がけたという状態です。ラットの肝細胞培養において、過酸化水素によって起こる肝障害に限り、キセル貝の肝障害抑制効果は確認できましたが、そのメカニズムは不明であり、キセル貝のそのほかのことについても、すべてはこれからといったほうがいいかもしれません。
 さて、私たちは、ラットの肝細胞を培養し、これに活性酸素(フリーラジカル)の一種で、肝障害を起こす作用のある過酸化水素(オキシフル)を加えて実験しました。まずラットを5グループに分け、3時間後、6時間後の経過を検討すると表1のように、キセル貝の肝障害抑制効果が確認できました。ただしその効力は、カタラーゼほど強いものではありません。またキセル貝の成分として、タウリン、ビタミンE、グリコーゲン、カルシウムはすでに分析されています。このうちどの成分にも、過酸化水素による肝障害の抑制作用は認められませんでした。つまり抑制するのは、キセル貝の中の未知の成分か、あるいは、これらの成分の微妙なバランスによる長期飲用の相乗効果ということでしょうか。

山形大学医学部 第2内科助教授
新沢陽英(しんざわはるひで)